膝蓋骨脱臼、内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)損傷について
膝蓋骨脱臼とは?内側膝蓋靭帯損傷とは?
膝蓋骨(膝のお皿)が脱臼する(外れる)ことです。殆どの場合、外側に脱臼します(図1)。
図1: 膝蓋骨脱臼のイメージ
若年者(特に18歳以下)に多く、ジャンプの着地や太ももの筋肉(大腿四頭筋)が強く収縮した時などに生じます。
初回脱臼の発生は:5.8人/10万人/年、16歳以下の小児に限ると43人/10万人/年と言われています。
一度脱臼すると40~60%で繰り返し脱臼(再脱臼)することがあり、再脱臼しなくても膝蓋骨の異常可動性があり膝の不安定感や痛みを訴えることもあります。また、脱臼不安感のためにスポーツパフォーマンスや日常生活動作レベルの低下もしばしば見られます。
原因
そもそも下肢はわずかにX脚となっていることが多く、この状態で大腿四頭筋(太ももの筋肉)が収縮すると、膝蓋骨は外側にずれる力が働きます(図2、図3)。
図2: 下肢はX脚になっていることが多い
図3: 筋収縮時、膝蓋骨は外側にシフトしやすい
脱臼する主な原因として
- ① 内側膝蓋大体靭帯(MPFL:Medial patellofemoral ligament)が断裂すること(図4)
- ② 先天性の素因(脱臼素因)
図4: 内側膝蓋大体靭帯(MPFL)の模式図
① 内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)とは
膝蓋骨の内側から大腿骨の内側に付着する靭帯です。膝蓋骨が外側へシフトする動きを制動する役目を果たします(図3、図4)。
初回の膝蓋骨が脱臼によりこの靭帯の損傷を生じることが多く、繰り返し脱臼しやすくなったり(反復性脱臼)、膝蓋骨の不安定感を感じやすくなったりします。
② 先天性の素因(脱臼素因)
解剖学的なリスク因子とし膝蓋骨高位 (a)、脛骨粗面の外方偏位 (b)、滑車低形成 (c)( Dejour分類とも言われます)、外反膝 (d)、膝蓋骨傾斜 (e)などがあります(図5)。
図5: 膝蓋骨脱臼の解剖学的リスク因子(参考文献3より引用)
症状
脱臼時(急性期)
ジャンプ着地や膝の屈伸・捻り動作などで膝蓋骨が脱臼し、膝蓋骨の位置が外側に移動します。この時、通常は激痛を生じます。膝蓋骨は自然に元に戻ることもあれば、自分で(または病院で)膝蓋骨を押すことで比較的容易に整復可能です。
急性期(受傷〜数週間)は膝の痛みや腫れが続きます。
それ以降(急性期以降)
ジャンプ着地や膝の屈伸・捻り動作などで膝蓋骨が外れそうな感覚(Apprehension)、膝がガクッとなる感覚(Giving way)、引っかかる感覚などが生じる場合があります。膝の不安定感のためにスポーツ動作や日常生活動作でも支障をきたすことがあります。
診断
病歴と身体所見に加えて、レントゲンやCT、MRIなどを併用して診断します。
治療(保存、手術)
主に、保存療法(リハビリなど)と手術療法に分けられます。
保存療法
受傷後3~6週程度は膝を伸ばした状態で固定します。膝蓋骨の再脱臼を予防するために大腿四頭筋(特に内側の内側広筋)の筋力強化や、膝蓋骨脱臼の生じやすい肢位(膝軽度屈曲+膝外反+下腿外旋)とならないよう姿勢の指導、体幹や股関節周囲の筋力・柔軟性強化を行います。また、膝蓋骨の脱臼を予防するサポーターの装着なども行います。
通常、3~6ヶ月でスポーツ復帰を許可します。
手術療法
図6: 再建術後(当院で採用している術式)
修復術(断裂部を修復する手術)または再建術(断裂した靭帯を作り直す手術)が行われます。
修復術では特に初回脱臼で膝蓋骨の軟骨が損傷した場合などに行われることが多いです。断裂した靭帯や破綻した軟骨を修復します。
最も一般的な手術は再建術で、ハムストリングなどの靭帯を形成して束ねて、もともと内側膝蓋大腿靭帯が位置していた部位に新しい靭帯を作成する手術です。再建した靭帯を骨孔(骨に開けた穴)に入れることで安定した固定を獲得します(図6、図7)。
術翌日より膝の可動域訓練(曲げ伸ばし運動)を開始してリハビリを進めていきます。
入院期間は1~2週程度です。退院後も外来でリハビリ継続が必要となります。
筋力が改善してきたら術後2~3ヶ月でジョギングを開始し、5ヶ月程度でスポーツ復帰を許可しています。
図7: 術前、術後の膝蓋骨位置
手術する場合、入院は1~2週程度、スポーツ復帰は3~6ヶ月で許可しています。
手術の合併症としては、創部周囲の痺れ、再脱臼、膝関節の拘縮(曲げ伸ばしに制限が出ること)、感染などがあります。
初回脱臼の場合、一般的には脱臼素因が強くなければ保存療法が選択される場合が比較的多いです。しかし、初回脱臼でも膝蓋骨の軟骨損傷が明らかな場合は手術による軟骨修復が必要なこともあります。
どれが効果的な治療であるか、決まった見解は出ていません。また、全ての患者さんで同じ治療を行うわけではなく、症状や脱臼素因、スポーツレベルにより最適な治療法は変わってきます。
それぞれの患者さんにどんな治療を検討すべきか、判断材料になるいくつかの文献を紹介します。
まとめ
膝蓋骨脱臼について簡単に説明しました。
一度脱臼すると再発することが多いため、患者さんごとに脱臼素因を判断して治療方針を決定する必要があります。
当科で診療可能ですので、お悩みの方はお気軽にご相談ください。
- 日本整形外科学会 専門医
- 日本整形外科学会 所属
- 日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS) 所属
- 日本骨折治療学会 所属
- 日本人工関節学会 所属
- 専門 : 膝・股関節
- 前橋市出身(1989年生まれ)
- 2007年 県立前橋高校卒業
- 2013年 山形大学医学部医学科卒業
- 2013年- 沖縄中部徳洲会病院勤務(初期臨床研修)
- 2015年- 群馬大学医学部付属病院、公立藤岡総合病院
- サンピエール病院、善衆会病院勤務
- 2020年4月- 堀江病院
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