変形性膝関節症の治療

はじめに

膝関節は人体で最も大きな関節のうちの一つです。歩行時・運動時には全体重が加わり、常に強い力学的負荷に曝されています。膝の組織(軟骨や半月板、靭帯など)が損傷すると、徐々に膝の変形が進行し、痛みや可動域制限(曲がらない、伸びない)をきたすことがあります。この状態を変形性膝関節症と呼び、程度が強いと生活に支障をきたします。変形性膝関節症は60歳以上では10人に1人程度の割合で有すると言われており、ごく一般的な疾患です(疾患というよりも、加齢性変化の一部とも言えます)。膝の痛みや変形により普段の生活が制限され程度によってはQOL(生活の質)が低下してしまいます。

変形性膝関節症の診断

主に病歴や身体診察、レントゲン画像などで診断します。初期の場合にはレントゲン上の変化が少ない場合もありますので、必要に応じてMRIやCTなども併用します。また、多関節痛を訴える患者さんでは関節リウマチなどの全身性の疾患が隠れていることもありますので、疑われる場合には採血検査も行います。

正常な膝
正常な膝
変形した膝
変形した膝

治療

保存治療と手術があります。基本的には保存治療が主体となり、保存治療で膝の痛みが改善しない場合に手術を検討する、というのが基本的な流れとなります。

保存治療

  • 理学療法(リハビリ)
  • 鎮痛剤の内服
  • ヒアルロン酸注射
  • 再生医療(当院ではまつだ整形外科クリニックへご紹介しています)
  • 装具(インソールやサポーター)

外来でこれらの治療を行います。これらの治療を数ヶ月行うことで、ある程度の改善が見込めます。
しかし、変形が強い場合や症状経過が長い場合は効果が限定的であることもあり、その場合は手術も検討する必要があります。

手術

以下の項目を満たす場合に、手術を検討します。

  • 保存治療(上記内容)を少なくとも数ヶ月以上行っている
  • 膝の痛みや歩行障害により日常生活へ支障をきたしている(生活に困っていなければ変形していても手術の必要はありません)
  • 他の疾患(リウマチなど)ではないことが明らかである

術式

大きく分けて、骨切り術と人工関節の2種類があります。

骨切り術と人工関節
骨切り術をお勧めする場合
  • 若年者(50歳以下)
  • ハイレベルなスポーツ(柔道、ラグビー、フルマラソンなど)、または重労働を行う場合
人工関節をお勧めする場合
  • 60歳以上の方
  • ハイレベルなスポーツを行わない場合(ウォーキング、ハイキング、社交ダンスやヨガ、ボウリング、ゴルフはOK)
  • 変形が高度、膝が伸びない場合

以下に人工関節手術(人工膝関節置換術:TKA)について、治療の流れをご説明します。
人工膝関節置換術は国内で最も多く行われており(年間9万件以上)、満足度の高い手術と言われています。(*1,*2,*3,*4)

(*1) Knee Surg Relat Res 2016;28(1):1-15
(*2) Bryan et al. BMC Musculoskeletal Disorders (2018) 19:423
(*3) Clin Orthop Relat Res (2010) 468:57–63
(*4) Acta Orthopaedica 2018; 89 (1): 101–107

人工関節の手術方法

人工膝関節置換術とは、すり減った骨・軟骨の表面を取り除き、その部分を金属とポリエチレンで構成された人工関節に置き換える手術です。

全置換術と単顆置換術
通常は全置換術を行いますが、場合によっては関節の片側のみインプラント交換を行う場合もあります(単顆置換術)。全置換術と比較して、①キズが小さい、②入院期間が短い、③曲がりが良い、などのメリットがあります。しかしデメリットとして、長い経過でインプラントの緩みを生じて再手術を要する場合があること(全置換術より頻度が多い,*1)、置換していない側の関節の変形が進行する場合があること、などがあります。また、単顆置換術を行うには外側の関節が痛んでいない、膝が十分に伸びる・曲がる、膝の靭帯が正常、などの条件を満たす必要があります。

(*1) Acta Orthopaedica 2018; 89 (1): 101–107

実際の手術時の流れ

外来から入院まで

  • 日程、術式を決める(緊急で行う手術ではありませんので、手術の時期はご自身や家族のご都合に合わせて決めていただきます。)
  • 術前検査(手術より3-4週前頃)
  • 入院手続き(看護師、事務より詳しい案内があります)

入院中

  • 入院日は手術の前日が一般的です。(糖尿病のある方は血糖コントロール目的に早めに入院することもあります)
  • 手術当日
    • 朝:食事は摂らず、点滴のみ(*水分摂取可な場合もあります)
    • 昼:時間になったら手術室へ移動
    • 手術実施
    • 夜:病室で安静
    • 翌日~:リハビリ開始(起立、歩行開始)
  • 退院の目安
      以下の項目を満たすときに退院が可能となります。
    • 歩行、階段昇降が安定
    • 採血検査で問題なし
    • 創部が癒合している
    • 膝の屈曲が90-120°程度まで可能

入院期間

3週間程度のことが多いですが、経過に応じて前後します。希望があれば2週間前後で退院する方もいますし、もともと筋力低下など強い方は1ヶ月程度入院される方もいます。

退院後

3ヶ月程度は外来のリハビリの継続が必要です。退院直後は週に1-2回程度通っていただき、徐々に頻度を減らしていきます。初めのうちは3ヶ月に1回程度外来でレントゲンフォローを行い、術後1年以降は年に1回程度の外来受診となります。

その他

手術に伴う痛みについて

以前は人工関節手術は最も痛い手術のうちの一つと言われていましたが、最近は痛みのコントロール方法が確立されてきています。当院では、痛みが出る前に様々な種類の鎮痛剤を使用する除痛方法(Pre-emptive & Multimodal paincontrol)を取り入れており(*1,2)、内服薬、座薬、点滴、局所注射、神経ブロックなど様々な処置を行っています。手術当日の夜は神経ブロックによる重苦しい感覚が不快と感じる人もいますが、翌日には殆ど消失します。

(*1) Saudi Journal of Anesthesia / Volume 14 / Issue 1 / January‐March 2020
(*2) Knee Surg Relat Res 2017;29(2):80-86

費用

入院中にかかる医療費はおよそ180万円ですが、日本には高額医療制度で負担限度額が決まっていますので、実際に負担する金額は月に8万円(所得により違いあります)+食事代となります。

年齢の制限

人工膝関節の年代別の件数
人工膝関節の年代別の件数 (*1)

高齢だから手術が受けられないと思われる方も多いかもしれませんが、実際には人工膝関節置換術の受けている患者さんの中で最も多いのが70歳台(47%)、続いて80歳台(26%)、60歳台(18%)、90歳台(1%)(*1)です。
私個人としては90歳の女性にも人工関節手術を行ったことがあり、その患者さんは自立して歩けるようになって退院されました。術前に元気な方であれば術後経過が良いことも多いですので、年齢だけで制限を設ける必要はないと判断しています。逆に、年齢が若くても内科的な合併症(例えば重度の糖尿病など)があれば手術が行わない方が良いこともあります(*2)(*3)
ちなみに、変形があまりひどくなってから行うと手術手技が難しくなったり、術前に筋肉の萎縮が起こり術後のリハビリが大変になることもありますので、お早めにご相談ください。

(*1)TKA/UKA/PFA. レジストリー. 統計. 日本人工関節学会. https://jsra.info/pdf/TKA20180331.pdf
(*2)高齢者(80 歳以上)の変形性膝関節症に対する人工膝関節置換術 涌井元博  東北膝関節研究会会誌 Vol. 14 (2004)
(*3)85歳以上の超高齢者における人工膝関節全置換術の治療成績 80歳以上の高齢者との比較・検討 若林 弘樹 1

終わりに

以上、当院で行っている変形性膝関節症の治療についてご説明しました。
私も大学生の頃にラグビーで膝の靭帯を損傷した経験があり、膝の痛みで日常生活が大変になったことを覚えています。そのような経験から膝の痛みや変形でお困りの方に役立てればと思い、現在も膝関節外科医として働いています。膝の痛みで悩まれている方がいらっしゃいましたら、お気軽に外来を受診して頂けたら幸いです。

文責 : 整形外科 医長 栗原 信吾
  • 日本整形外科学会専門医
  • 日本整形外科学会所属
  • 日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)所属
  • 日本骨折治療学会所属
  • 専門 : 膝・股関節

  • 前橋市出身(1989年生まれ)
  • 2007年 県立前橋高校卒業
  • 2013年 山形大学医学部医学科卒業
  • 2013年- 沖縄中部徳洲会病院勤務(初期臨床研修)
  • 2015年- 群馬大学医学部付属病院、公立藤岡総合病院
  • サンピエール病院、善衆会病院勤務
  • 2020年4月- 堀江病院